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東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)281号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(本件審決の理由の要点)は当事者間に争いがない。

二 認定判断の誤り第1点について

1 成立に争いのない甲第三号証(引用例)によれば、引用発明について次のとおりの事実が認められる(なお、引用例に後記(五)中に引用した部分のうち、甲第三号証二頁左下欄四行から八行までの記載、後記(六)、、(七)に引用の記載があることは当事者間に争いがない。)。

(一) 引用発明の、特許請求の範囲は、「カーボンブラツク、金属粉または無機金属化合物をイソブテン―無水マレイン酸共重合体に分散させ、これを塗布してなる記録シート用支持体。」というものである(甲第三号証一頁左下欄四行から七行まで)。

(二) 引用発明は、「情報に応じて交換した文字・記号・図形などの電気信号を記録するフアクシミリあるいはこれに類似した装置に使用する記録シートにおいて使用される導電性支持体に関するものである。」(甲第三号証一頁左下欄九行から一三行まで)。

(三) 引用発明の従来技術についてみると、「記録層と導電性支持体とからなる電気信号によつて記録を形成させる記録シートは、これまで種々実用化されており、例えば・・・(中略)・・・放電記録シート、・・・(中略)・・・通電感熱シート、あるいは帯電現象を利用した静電記録シートなどがある。

これらの記録シートの支持体は通常導電性が付与され、その方法としては、・・・(中略)・・・一般にはカーボンブラツクまたはアルミニウム、亜鉛、銅、銀などの金属粉末、あるいは酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化鉛、沃化銅、臭化銅などの無機金属化合物を水溶性高分子の結着剤に混合分散させ、これを原シート上に塗布する方法や、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カリウムなどの無機塩や酢酸ナトリウム、酢酸カリウムのような有機酸塩さらには水溶性高分子の単独使用、またはこれらと前記無機塩、有機酸塩との併用するなどの方法がとられている。」(甲第三号証一頁左下欄八行から右下欄一五行まで)。

(四) 前記のような従来技術の欠点についてみると、

(1) 「ポリビニルアルコールやヒドロキシエチルセルロースなどの水溶性高分子の結着剤に、カーボンブラツク、金属粉末、無機金属化合物などを混合分散させて塗布した導電性支持体は、水分の影響を受け、高湿時、たとえば三〇℃で相対湿度が九〇%という過酷な条件下では、結着剤が著しく膨潤して結着剤中に分散された導電性物質粒子相互の接触が弱まり、導電性が低下し記録ができなくなつてしまう欠点がある。」(甲第三号証一頁右下欄一六行から二頁左上欄五行まで)。

(2) 「また、無機塩や有機酸塩あるいは水溶性高分子電解質を使用した導電性支持体は、水分があつてはじめて導電性を示すものであり、したがつて低湿度において導電性がなくなり、これもまた記録ができなくなつてしまう欠点がある。」(甲第三号証二頁左上欄六行から一〇行まで)。

このように前記導電性支持体は、水分の影響を受け、湿度変化によつて記録特性が変化する欠点がある。

(3) 「さらに、これらの導電性支持体上に水溶性高分子を結着剤として使用した記録層を塗布するとき、導電性支持体が記録層の塗料によつて侵され、その導電性が変化したり、塗工むらを生ずる原因となる。」(甲第三号証二頁左上欄一三行から一七行まで)。

(4) 「また、水溶性高分子電解質を使用した導電性支持体上に非水溶性高分子よりなる記録層を設けた記録シートは、高湿度時や浸水時に水溶性高分子電解質の層が水分によつて侵され記録層が支持体から剥離する欠点がある。」(甲第三号証二頁左上欄一七行から右上欄三行まで)。

(5) 一方、非水溶性高分子を結着剤とした「導電性支持体は耐水性があり湿度変化の少ない導電性支持体が得られるが、非水溶性高分子は有機溶剤を使用するため紙に塗工する際は溶剤の浸透防止が必要になるなど、その取り扱いが面倒なことや、この非水溶性高分子を結着剤とした導電性支持体の上に、非水溶性高分子を有機溶剤で溶解させた塗料で記録層を作ることは、非水溶性高分子および有機溶剤の選択が非常に困難となる。」(甲第三号証二頁右上欄三行から一二行まで)。

(五) 右のような従前技術の問題点を解決することを技術課題、目的として、引用発明の発明者らが追求したところ、「導電性支持体の結着剤としては、水を分散媒とし、しかも塗工後、耐水、耐湿度性をもつものが最も望ましく、また、皮膜形成能と導電材の分散性が良い」ものが望ましいことを見出した。「すなわち皮膜形成能が良く、導電材の分散が均一になれば、導電材の使用量を低減できるし、表面抵抗のむらがなくなり、記録画像にも良い結果を与える。特にその鮮明度を著しく向上させる。」(甲第三号証二頁右上欄一三行から左下欄二行まで)

「このような要求特性をすべて満足する導電性支持体の結着剤について種々検討した結果、イソブテン―無水マレイン酸共重合体が最も適当しており、これにカーボンブラツクまたは無機金属化合物を分散させて塗布した支持体は、要求される諸特性を十分に満足させるものであることを見出した。」ものである(甲第三号証二頁左下欄二行から八行まで)。

右のような知見に基づいて、前記(一)の特許請求の範囲のとおりの構成が採用されたものである。

(六) このように導電材をイソブテン―無水マレイン酸共重合体に分散させ、これを塗布した引用発明の記録シート用支持体は、「導電材の低減化などコスト的に有利となるのみでなく、下記実施例で示す如く、ことに湿度に対する安定性が非常に良いためこれを支持体としてその表面に感熱記録層、静電記録層、放電記録層等を設けた場合は良好な画像を形成することができる。」(甲第三号証三頁左上欄二行から九行まで)という効果を奏するものである。

(七) 引用発明において、「導電性を付与する材質としては、カーボンブラツクまたはアルミニウム、亜鉛、銅、銀などの金属粉末、あるいは酸化チタン、酸化亜鉛、三価の不純物をドーピングした酸化亜鉛、酸化スズ、不純物をドーピングした酸化スズ、酸化鉛、沃化銅、臭化銅などの無機金属化合物などがあげられる。」(甲第三号証三頁左上欄一〇行から一六行まで)とされている。

したがつて、前記(一)の特許請求の範囲及び前記(五)の技術課題解決のための知見において、イソブテン―無水マレイン酸共重合体に分散させる無機金属化合物に、酸化亜鉛及び三価の不純物をドーピングした酸化亜鉛が含まれることは明らかである。

(八) 引用例に記載された引用発明の五つの実施例のうち、製造された導電性支持体を使用して静電記録シートとしたものは実施例3であるところ、実施例3においては、導電材として沃化第一銅をイソブテン―無水マレイン酸共重合体に分散させ、所要の処理を経て導電性支持体としたものであるが、その導電性支持体の相対湿度と表面抵抗の関係は、相対湿度九〇%の場合の表面抵抗は、1.1×106オーム、相対湿度六五%の場合の表面抵抗は8.5×105オーム、相対湿度三〇%の場合の表面抵抗は、5×105オームであつて、湿度変化により表面抵抗はあまり影響を受けなかつた。この導電性支持体上に静電記録層の塗料を塗布し、静電記録シートとして使用したところ、良好な画像が得られ、かつ水分によつて記録層が剥離するような現象もみられなかつた(甲第三号証三頁左下欄末行から右下欄一五行まで、四頁右上欄の第1表中「実施例3」の欄)とされている。

2 右認定の事実によれば、次のようにみることができる。

(一) 酸化亜鉛は、前記1(三)のとおり、引用発明の先行技術において、記録シートの支持体に導電性を付与する一般的方法として水溶性高分子の結着剤に混合分散させる金属粉末あるいは無機金属化合物の一つとされていたものである。

(二) 従前技術の前記1(四)のような問題点を解決し、要求特性をすべて満足する導電性支持体の結着剤としてイソブテン―無水マレイン酸共重合体が最も適当していること及び右イソブテン―無水マレイン酸共重合体に無機金属化合物を分散させて塗布した支持体は、要求される諸特性を充分に満足させるものであることを前記1(五)のとおり引用発明の発明者らが見出した。

(三) 右のような導電材である無機金属化合物、即ち、前記1(一)のとおり引用発明の特許請求の範囲にイソブテン―無水マレイン酸共重合体に分散させるものとされている無機金属化合物として、前記1(七)のとおり酸化亜鉛及び三価の不純物をドーピングした酸化亜鉛が挙げられている。

(四) そのような導電材を使用したものを含む引用発明の記録用シート支持体は、前記1(六)のとおり、導電材の低減化などコスト的に有利となるのみでなく、湿度に対する安定性が非常に良く、これを支持体としてその表面に静電記録層等を設けた場合は良好な画像を形成することができるという効果を奏する。

したがつて、酸化亜鉛及び三価の不純物をドーピングした酸化亜鉛は、引用発明の技術課題、目的、効果に対応する構成を成す物質として引用例に明記されているもので、引用発明の特許請求の範囲中の無機金属化合物としてそれらの物質を使用したものは、発明として実態を備えたものであるということができる。

3 引用例に、請求の原因四1(一)の(1)ないし(5)のような記載のあることは当事者間に争いがない。

引用例における酸化亜鉛についての具体的記載は、前記1(七)のとおり、引用発明における導電性を付与する物質として、酸化亜鉛及び三価の不純物をドーピングした酸化亜鉛が他のカーボンブラツク、金属粉末、無機金属化合物等と共に列挙の形式で記載されているのみであり、前記甲第三号証によれば、引用例には導電材として酸化亜鉛又は三価の不純物をドーピングした酸化亜鉛を使用した実施例の記載がないことは認められる。

しかし、列挙の形式で記載されているからといつて、その物質を使用する発明が実態のないものとする根拠はないうえ、引用例の場合、前記1(七)に引用発明における導電材として列挙されている物質と、前記1(三)に従来技術において使用された導電材として列挙された物質とを比較すると、引用発明の導電材には、三価の不純物をドーピングした酸化亜鉛及び不純物をドーピングした酸化スズが加わつていることからも、それらの導電材が具体的に検討のうえで列挙されたことがうかがわれる。

また、実施例に記載されたものだけが発明を構成し、実態のある発明ということができるものではない。特許請求の範囲に上位概念で特定された発明を構成する物質を、発明の詳細な説明において具体的物質名で多数列挙し、そのうちのごく一部について実施例として具体的な説明をすることはしばしばなされることであることは当裁判所に顕著であり、特別なことではない。現に、成立について当事者間に争いのない甲第二号証によれば、本願明細書においても、特許請求の範囲に記載された「水溶性ないし水分散性の接着剤樹脂」に該当するものとして、発明の詳細な説明の欄にメチルセルロース以下多数の物質が挙げられている(甲第二号証二頁3欄四〇行から4欄一八行まで)が、実施例として挙げられているのはその内の二、三に過ぎないことが認められる。

引用例に引用発明の導電材として列挙されているのみで、実施例に使用されていない酸化亜鉛等の物質も、引用発明の目的、効果に対応する構成を成す物質であることは前記2に認定のとおりであり、酸化亜鉛等の物質を使用した場合であつても引用発明はその効果を奏するものとして引用例に記載されているものであつて、これに対し、酸化亜鉛等列挙されているのみの物質が、引用発明の効果を奏することが確認されたものでないと疑わせる証拠はない。

4 よつて、本願発明と引用発明とを対比検討するに当たり、引用例には、「導電性支持体上に絶縁性樹脂を主体とする記録層を設けてなる静電記録体において、上記導電性支持体が、導電性の酸化亜鉛粉末および水溶性の接着剤樹脂を含有する導電層を有する静電記録体が記載されている」とした本件審決の認定判断に、原告主張の誤りはない。

三 認定判断の誤り第2点について

1 請求の原因四2の(一)は当事者間に争いがない。

2 前記甲第二号証(本願明細書)によれば、本願発明について次のとおりの事実が認められる。

(一) 本願発明は、「静電記録体に関し、特に低湿度雰囲気下においても安定して高濃度の記録画像を得ることのできる静電記録体に関するものである。」(甲第二号証一頁2欄二四行から二六行まで)

(二) 本願発明の従来技術についてみると、「静電記録体を用いるフアクシミリーは近年情報量の増加にともない低速機(五~六分/A―4)から中速機(二~三分/A―4)、高速機(一分以下/A―4)へとスピードアツプがはかられており、・・・(中略)・・・このようなフアクシミリーの高速化に対応して安定な記録を得るためには、応答速度との関連で静電記録体のインピーダンスを下げる必要がある。静電記録体の導電性支持体は通常表面電気抵抗値として106~1010オームが最適とされており、かかる範囲になるようにコントロールされているが特に高速フアクシミリーにおいては、例えば表面電圧抵抗値が106オームになると記録濃度が下がりはじめ、1012オームになるとまつたく記録されないか、極端に記録濃度が下がつてしまう。上述の如く通常の静電記録体の導電性支持体は常湿で106~1010オームにコントロールされているが、例えば低湿度下に長時間置かれると、一般に導電処理剤として使われている高分子電解質の導電性がイオン性であるため、低湿度となるに従つて導電性支持体の含有水分の減少と相まつてイオン解離量が減り抵抗値が高くなつてしまう。

このように水分の影響を受けやすい欠点を有する高分子電解質にかわる導電材料として1×103~9×105オーム・㎝という特定の体積抵抗を有する導電性の酸化亜鉛粉末を用いる方法(特開昭五一―二五一四〇号)が提案されているが、改良に伴つて新たな欠点が付随するため必ずしも満足すべき結果が得られていない。即ち、かかる酸化亜鉛を用いる場合、接着剤樹脂としてポリビニルアルコール、メチルセルローズ、スチレン、ブタジエン共重合体ラテツクスなどの水溶性ないし水分散性の接着剤樹脂を用いると導電性支持体として充分な導電性が得られず、結果的に記録濃度の出ない静電記録体となつてしまう。そのため接着剤樹脂としては・・・(中略)・・・有機溶剤可溶型の樹脂を用いなければならず、取扱いおよび価格等の点で大きな欠陥となつている。」(甲第二号証一頁1欄三五行から二頁3欄七行まで)

(三) 本願発明の発明者は、「水溶性ないし水分散性の接着剤樹脂を用いても充分な導電性が得られ、特に低湿度雰囲気下においても安定して高濃度の記録画像が得られるような静電記録体を得るべく鋭意検討した結果、一五〇kg/cm2の圧力下に、〇・〇一~五〇〇オーム・cmの比抵抗を有する酸化亜鉛粉末を用いることによつて、その目的を達成することができたものである。」(甲第二号証二頁3欄八行から一五行まで)

(四) 「導電性酸化亜鉛粉末はn型の半導体であり、通常、フランス法により作られた亜鉛華に少量のAl2、O3、Cr2O3またはGa2O3を添加して高温で焼成することによつて作られるが、導電性は添加物の種類、添加量、焼成時間、処理時間や冷却条件などによつて変化し、それら諸条件を適切にコントロールすることによつて各種の導電性を有するものが工業的に生産可能である。」(甲第二号証二頁3欄一六行から二三行まで)

(五) 本願発明の「静電記録体に用いて有用な酸化亜鉛は、一五〇kg/cm2の圧力をかけたとき〇・〇一~五〇〇オーム・cm好ましくは〇・一~二五〇オーム・cmの比抵抗を有する白色ないし淡灰色の酸化亜鉛である。

比抵抗が〇・〇一オーム・cmより小さい酸化亜鉛粉末は、その製造時に所望の抵抗値を得るために過量のAl2O3等を添加する必要があり、しかも焼成温度も高くしなくてはならない。このために得られる酸化亜鉛粉末は黒味をおび、かつ粉末同士の焼結による粗大粒子が著しく増すため塗液の調整が困難なうえ得られる静電記録体の品位を著しく損なうものである。

また抵抗比が五〇〇オーム・cmより大きくなると水溶性ないし水分散性の接着剤樹脂と併用した場合の導電性支持体の表面抵抗値が高くなつて常湿下においてすら所望の記録濃度が得られない。」(甲第二号証二頁3欄二四行から三九行まで)

(六) 本願発明において、前記の如き「特定の比抵抗を有する酸化亜鉛粉末と併用される水溶性ないし水分散性の接着剤樹脂としては、例えば・・・(中略)・・・イソブテン・無水マレイン酸共重合体塩・・・(中略)・・・等が挙げられる。」(甲第二号証二頁3欄四〇行から4欄一三行まで)

(七) 「塗液は紙、合成紙など通常の支持基体上に処理され、少なくとも記録層に接する面に導電層が形成される。支持基体への塗液の処理方法としては・・・(中略)・・・好ましくは塗布方法によつて処理される。処理量は、支持基体の表面抵抗値が常湿で106~1010オームとなるように調節され」る(甲第二号証二頁4欄二五行から三三行まで)。

(八) 本願発明の「静電記録体では、極低湿条件下においても安定して高濃度の記録像が得られるもので」ある(甲第二号証三頁5欄一八行から二〇行まで)。

3 右2の(二)、(三)、(五)ないし(八)の事実によれば、本願発明が、その導電性支持体に導電材として一五〇kg/cm2の圧力下に、〇・〇一~五〇〇オーム・cmの比抵抗を有する酸化亜鉛粉末を使用する理由は、右の範囲のものであれば、例えばイソブテン―無水マレイン酸共重合体塩のような水溶性ないし水分散性の接着剤樹脂を用いても充分な導電性が得られ、高速フアクシミリに対応できるように支持基体に塗布された導電性支持体の表面電気抵抗値が常湿で106~1010オームとなるように調整でき、特に低湿度雰囲気下においても安定して高濃度の記録画像が得られるような静電記録体を得るという目的を達成することができるからであることが認められる。

4 ところで、引用発明も、静電記録体用を含む記録シートの導電性支持体の導電材として酸化亜鉛、三価の不純物をドーピングした酸化亜鉛を使用する場合を含み、かつ、結着剤(接着剤)として水溶性のイソブテン―無水マレイン酸共重合体を使用するものであり、そのような引用発明の記録用シート支持体は、湿度に対する安定性が非常に良く、これを支持体としてその表面に静電記録層等を設けた場合は良好な画像を形成することができるという効果を奏するものであること及び導電材として沃化第一銅を用いて製造された導電性支持体を使用して静電記録シートとした実施例においては、その導電性支持体の表面抵抗は、相対湿度が九〇%、六五%、三〇%のいずれの場合も、106オーム台、あるいは106オームに極めて近い105オーム台であり、湿度変化により表面抵抗はあまり影響を受けず、この導電性支持体を用いて製造された静電記録シートは良好な画像が得られたとされていることは、前記二1及び2に認定判断したとおりである。

したがつて、引用発明において静電記録層が良好な画像を形成することができるとされているのは、導電性支持体の表面抵抗が106オーム台、あるいは106オームに極めて近い105オーム台程度の場合を含むものである。

そうすると、引用発明も、導電性支持体に導電材として酸化亜鉛粉末を使用し、例えばイソブテン―無水マレイン酸共重合体塩のような水溶性ないし水分散性の接着剤樹脂を用いても充分な導電性が得られ、支持基体に塗布された導電性支持体の表面電気抵抗値が常湿でほぼ106~1010オームとなるように調整できるので高速フアクシミリに対応でき、特に低湿度雰囲気下においても安定して高濃度の記録画像が得られるような静電記録体を得るという目的を達成することができる点において、本願発明と同様であるといわざるを得ない。

ところで成立について当事者間に争いのない乙第二号証、乙第三号証及び前記甲第二号証、甲第三号証によれば、引用発明の出願時である昭和五〇年七月九日より、少なくとも二年八月前の昭和四七年一一月から、一五〇kg/cm2の圧力下に、〇・〇一~五〇〇オーム・cmの範囲の比抵抗を有し、ハンター白色度が七八・〇以上である導電性酸化亜鉛が日本国内において製造販売されていたこと、その製造販売者は本願明細書に実施例に使用した一号亜鉛華の製造者として記載されている会社であることが認められ、右範囲の比抵抗を有する導電性酸化亜鉛粉末自体は、引用発明の出願当時既に国内で普通に知られていたものということができる。

そして、引用発明が、一五〇kg/cm2の圧力下に、〇・〇一~五〇〇オーム・cmの比抵抗を有する酸化亜鉛粉末の使用を特に排除していることを認めるに足りる証拠はない。

したがつて、本願発明と同じく、導電性支持体に導電材として酸化亜鉛粉末を使用し、イソブテン―無水マレイン酸共重合体塩のような水溶性ないし水分散性の接着剤樹脂を用いても充分な導電性が得られ、支持基体に塗布された導電性支持体の表面電気抵抗値が常湿でほぼ106~1010オームとなるように調整できるので高速フアクシミリに対応でき、特に低湿度雰囲気下においても安定して高濃度の記録画像が得られるような静電記録体を得るという目的を達成することができる効果を奏する引用発明においても、本願発明と同様に、一五〇kg/cm2の圧力下に、〇・〇一~五〇〇オーム・cmの比抵抗を有する酸化亜鉛粉末が使用されているものといわざるを得ず、本願発明の要旨とする構成は、引用例に示されているものである。

5 引用例における酸化亜鉛についての具体的記載は、導電性を付与する物質として、酸化亜鉛及び三価の不純物をドーピングした酸化亜鉛が他のカーボンブラツク、金属粉末、無機金属化合物等と共に列挙の形式で記載されているのみであることは前記二3に認定したとおりである。

また、請求の原因四2(二)の(2)は当事者間に争いがない。

しかし、本願出願当時、1×10-1オーム・cmといつた低抵抗の導電性酸化亜鉛は、例えば、自動車の特殊タイヤ等の特殊なものの帯電防止剤としてのみ使用されていたもので、静電記録体の作製に使用できる導電性酸化亜鉛はせいぜい103オーム・cm程度ないしはそれ以上の比抵抗のものであるとされていたのが当該技術分野の導電性酸化亜鉛についての実情であつたと認めるに足りる証拠はない。

原告は、本願発明の静電記録体の導電層に使用する一五〇kg/cm2の圧力下に、〇・〇一~五〇〇オーム・cmの比抵抗を有するという選択された特定の導電性酸化亜鉛粉末は、本願発明の発明者によりその特段の有用性が初めて見出されたものであり、引用例に記載の、引用発明の出願時に一般に容易に入手できる「酸化亜鉛」と呼ばれる酸化亜鉛又は酸化亜鉛に三価の不純物をドーピングしたものとは客観的に区別できる、静電記録体の分野においては、いわゆる用途新規な物質に他ならない旨主張するが、引用発明においても、本願発明と同様に、一五〇kg/cm2の圧力下に、〇・〇一~五〇〇オーム・cmの比抵抗を有する酸化亜鉛粉末が使用されているものといわざるを得ないことは、右2ないし4に判断したとおりであり右主張は採用できない。

6 よつて、「引用例記載の導電層は静電記録体の導電層として使用されているので当然に充分な導電性を有していて、導電性の酸化亜鉛粉末及び水溶性の接着剤樹脂を含有するものであり、」及び「引用例記載の導電性の酸化亜鉛粉末はその比抵抗値が、本願発明の導電性の酸化亜鉛粉末の比抵抗値の範囲内のものが使用されているということができる。」との本件審決の認定判断に、原告主張のような誤りは認められない。

四 認定判断の誤り第3点について

請求の原因四3の(二)は当事者間に争いがない。

引用発明も、導電性支持体に導電材として酸化亜鉛粉末を使用し、例えばイソブテン―無水マレイン酸共重合体塩のような水溶性ないし水分散性の接着剤樹脂を用いても充分な導電性が得られ、支持基体に塗布された導電性支持体の表面電気抵抗値が常湿でほぼ106~1010オームとなるように調整できるので高速フアクシミリに対応でき、特に低湿度雰囲気下においても安定して高濃度の記録画像が得られるような静電記録体を得るという目的を達成することができる点において、本願発明と同様であることは、前記三の2ないし4に判断したとおりであり、そのことは当然、引用発明も、支持体表面への導電層形成のための望ましい導電性塗液の調整が可能であり、作成される静電記録体の記録層が望ましい白さのものになるものであることをも意味するから、原告の主張する本願発明の作用効果は、引用発明の作用効果と同じであり、それが引用発明から到底予期することのできないものということはできない。

したがつて、本願発明が、「一五〇kg/cm2の圧力下に、〇・〇一~五〇〇オーム・cmの比抵抗を有する」という選択された特定の導電性酸化亜鉛粉末を構成要件として選択することにより、引用発明によつては予測できなかつた特段の作用効果を奏するものとは認められないから、本願発明が選択発明として特許を受けることができるものとの原告の主張は理由がない。

五 よつて、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に、本件審決の取消を求める原告の本訴請求は理由がないから棄却することとする。

〔編注〕本願発明の要旨は左のとおりである。

導電性支持体上に絶縁性樹脂を主体とする記録層を設けてなる静電記録体において、該導電性支持体が(a)一五〇kg/cm2の圧力下に、〇・〇一~五〇〇オーム・cmの比抵抗を有する酸化亜鉛粉末および(b)水溶性ないし水分散性の接着剤樹脂を含有する導電層を有することを特徴とする静電記録体。

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